
スポーツにおける男性優位と性別二元性の構造
スポーツが誕生した19世紀のイギリスでは、ほとんどのスポーツが男性中心で行われていました。近代スポーツの創出段階ではシスジェンダー(性自認と生まれ持った性別が一致している人)男性優位の文化だったということです。
また、五輪でも各国際大会でもほとんどの種目で、アスリートは男女別のカテゴリーで競い合っています。もちろん、数少ない種目として、テニス、バドミントン、卓球のミックスダブルス、アーティスティック・スイミングのミックスデュエットなどもありますが。
プロスポーツ界では、賞金総額の男女格差が顕著に見られます。例えば、2019年のフランス女子サッカーW杯の賞金総額が3000万ドル(約32億6000万円)であったのに対して、2018年にロシアで開催された男子サッカーW杯の賞金総額は4億ドル(約434億4000万円)で、女子の10倍以上でした。
これは、スポーツが性別二元性の構造を歴史的に培ってきたことを示しています。
出生時に「女性」に割り当てられ、「男性」に変更したアスリートは、何の条件もなく男性種目に出場できますが、「男性」から「女性」に変更したトランスジェンダー女性アスリートは性別確認検査を強いられてきました。IOCは、2021年11月に、大会出場資格を問う際に必ずしもテストステロン値を基準とする必要はないとするガイドラインを発表しましたが、それにもかかわらず、「不公平で不均衡な競技上の優位性」がない証拠を提出しなさい、という記述が示されています。
つまり、性別確認検査を各種目の国際統轄団体に一任し、IOCとしての判断を避けているのです。これまで通りトランスジェンダー女性アスリートも性分化疾患のアスリートも、国際統轄団体が設けたテストステロン値の基準を遵守している証明を提出する義務を負うことになります。
アマチュアスポーツのあり方をどう改めるべきか
スポーツは、記録の向上とそのための身体の形成がアスリートの主要目的となりますから、やはり女性スポーツよりもスピードとパワーに勝り記録の良い男性スポーツに、多くの人々の目が向かわざるを得ないでしょう。
それ故、スポーツにおけるシスジェンダー男性優位と性別二元性という構造を転換することが困難であることは間違いありません。まずは、スポーツがそうした性格をもつものだという自覚に立つ必要があります。
その上で我々にできることは、市民アスリートの立場からこれまでのスポーツのあり方についての反省を明確にして、将来に向けてのスポーツ改革像を示していくことだと思います。
まずは、ジェンダーフリーの観点から、トランスジェンダーと性分化疾患の女性アスリートの扱い方について、どう考えどう対処したらよいかという問題です。
これについては、現在でも性自認を重視してアスリートの人権を守るか、性別確認検査をしてでも競技の公平性を重視するか、で揺れています。しかし最終的には、競技の公平性を重視する方向で決着しており、トランスジェンダーと性分化疾患の女性アスリートの人権も競技の公平性も軽視されています。
性分化疾患は、これまで偏見と差別を受けてきましたが、「『性分化疾患を病気として捉えず差別意識のきっかけをつくらない』という当事者の方々の意見もあり、現在では国際的に「DSD(Disorder of Sex Development)」という言葉が使われています。
DSDは生まれ持った性であって、これによって差別されてはならないのです。したがって、女性アスリートの競技の公平性を保証する根拠も基準も明確でないテストステロン値によって、競技会への参加の可否を決定することは許されないことです。
トランスジェンダー女性アスリートの場合も、男子競技に出場するか女子競技に出場するか、について本人の意思を尊重すべきです。
それには、新スポ連のような市民アスリートの立場から、将来に向けてのスポーツ改革像を示すことが大切で、そうした声を競技スポーツ界の統轄団体に届けていくことも必要だと思います。
男女別の競技と男女混合競技をどう考える
最後に、「これまで男女で分けておこなう競技が一般的だったけれど、ジェンダーフリーとの関わりでどうなるのだろうか?」「現在行われている男女混合競技について、ジェンダーフリーとの関わりでどのように考えたら良いのだろうか?」という質問ですが、現状では解の出ない問題です。
この点は、主催団体の判断でどういう競技を行うかを決定するものだと思います。もちろん、女性会員や参加者の意見を入れて配慮する必要があります。そのうえで、男女別の競技に固執する必要はありません。アスリート同士の接触のあるサッカー、ラグビー、バスケットボールのような種目では、安全を考慮したときに男女別の開催が必要かもしれません。
私の大学で行われているミニサッカー演習では、異質共同の学びを重視して、初心者も経験者も、男子も女子も混成でグループ学習を行っています。もちろんいくつかの条件があって、経験者は初心者を指導しつつ、全員が何らかの役割を発揮できるようなチームづくりを進めるよう導いていきます。
新スポ連の大会では、参加者の技能水準や意向を考慮しつつ、どういう種目を行うか決定していけばよいと思います。ただし、前例を踏襲するというだけでは柔軟な対応ができないでしょうから、つねにジェンダーに関する集団学習によって理解を深めつつ対応していく必要があると思います。
当面、私たちが参考にできるものとして、日本スポーツ協会発行の『体育・スポーツにおける多様な性のあり方ガイドライン―性的指向・性自認(SOGI)に関する理解を深めるために―』があります。このガイドラインは、「スポーツ組織ができること」「対応の原則は当事者の意向を把握すること」「ハードの整備は当事者がいる前提で取り組むこと」などの例を挙げて説明しているので参考になると思います。
〈参考〉
BBC NEWS Japan『世界陸連、トランスジェンダー女性の女子種目出場を禁止(3)』(2023年3月24日)
AFP BB News『女性選手の男性ホルモン値制限は「非科学的」、専門家が見解』(2019年3月19日)
岡田桂/山口理恵子/稲葉佳奈子『スポーツと LGBTQ+ シスジェンダー男性優位文化の周縁』晃洋書房(2022年)
加藤秀一『はじめてのジェンダー論』有斐閣(2024年)
HUMAN RIGHTS WATCH『アスリートへの性別確 認検査廃止すべき』(2020年12月)
BBC NEWS JAPAN『【検証】女子W杯、男女の賞金格差をめぐる現状』(2019年6月11日)
山口理恵子『女性ジェンダーとスポーツ―「女性のスポーツする権利」から「スポーツする権利のある女性」へ―』
來田享子、田原淳子「トランスジェンダー/インターセックス・アスリートのスポーツ参加をめぐる課題 ―性別確認検査導入の経緯と近年の参加資格規程変更をめぐって―」(2017年)
MedicalNote「性分化疾患(DSD)とは? 性分化疾患の種類や特徴について」
「スポーツのひろば」2025年5月号・6月号より
